
ここに書いてあること
すでに、「なぜ動物病院が犬の白内障の治療にNアセチルカルノシン目薬を使わないか?」について記事にしています。こちら。
今回は、サイト上で見られる、その、動物病院がNAC目薬を使わない理由について、それは、どのようなことを言っているのか、どのような事情があるのか、について調べてみました。
NAC目薬を使わない理由を確認してみた
今回は、武蔵小金井ハル動物病院のサイトに記載してある、以下の内容についてです。なお、本記事は、該動物病院のあげ足をとったり、貶めたりする意図は全くありません。
世の中には白内障の目薬がたくさんあります。
それらの多くは、理論的には白内障の進行を遅めるかもしれないといったものですが、キチンとした医学的根拠のあるものはいまだ存在しません(N-アセチルカルノシンに関する報告はありますが、2006年の報告を最後に追加の報告は2017年1月現在出ていません)。
上記を箇条書きのようにすると以下のようになります。
- 世の中には白内障の目薬がたくさんあります。
- それらの多くは、理論的には白内障の進行を遅めるかもしれないといったものですが、キチンとした医学的根拠のあるものはいまだ存在しません
- N-アセチルカルノシンに関する報告はありますが、2006年の報告を最後に追加の報告は2017年1月現在出ていません。
まず、1.については、どの目薬のことをさしているのかが不明。
2.については、「白内障の進行を遅める」とあるので、具体的にその表記のある「イヌ老年性初発白内障進行防止剤 ライトクリーン」を含めた目薬をさしておられるようです。しかしながら、ライトクリーンは農水省の動物用医薬品の登録があり、しかもそのために必要な臨床試験も行っているもののはずなので、医学的根拠のあるものです。飛躍して、察しますと、Nアセチルカルノシン目薬が動物用医薬品でないことをさして「キチンとした医学的根拠のあるものはない」と言っておられるのかもしれないです。
3.については、2006年の報告とは、具体的にどの文献のことをさしているのかが不明です。2006年より後に、Nアセチルカルノシンと白内障に関する報告がない(2017年1月当時で)、とのことなので、実際に、Google Scholarで「N-acetylcarnosine cataract」と入れて調べてみました。すると、報告はないことはなく、たとえば、以下のものがヒットします。多すぎるので、3つだけ紹介です。
- Mark A Babizhayev etal, Interv Aging. 2009; 4: 31–50.,N-Acetylcarnosine sustained drug delivery eye drops to control the signs of ageless vision: Glare sensitivity, cataract amelioration and quality of vision currently available treatment for the challenging 50,000-patient population
- Vincent DJ‐P Dubois, Andrew Bastawrous, 28 February 2017, Cochrane Database of Systematic Reviews, N‐acetylcarnosine (NAC) drops for age‐related cataract
- Authors: A. Babizhayev, Mark; E. Yegorov, Yegor, Source: Current Drug Delivery, Volume 11, Number 1, 2014, pp. 24-61(38), Biomarkers of Oxidative Stress and Cataract. Novel Drug Delivery Therapeutic Strategies Targeting Telomere Reduction and the Expression of Telomerase Activity in the Lens Epithelial Cells with N-Acetylcarnosine Lubricant Eye Drops: Anti-Cataract which Helps to Prevent and Treat Cataracts in the Eyes of Dogs and other Animals
以上、指摘させていただきましたが、文献の引用もなく、かなり、ボヤッとした内容です。著者の方はそこまで、キチッとしたことを書くつもりはなかったのかもしれないです。
白内障の目薬のことに触れたくないのかも
獣医の先生はもちろん専門家ですから、当然、動物のことについては一般人よりも詳しいわけですが、上記の内容をこうして見てみると、研究論文を書くわけでもないし、ちょっと、サイトにあげるだけ、というつもりで、ざっくり書いただけのものかもしれないです。また、おそらく専門が眼科ではないということも影響しているのかもしれません。
しかしながら、白内障の目薬Nアセチルカルノシン目薬についての認識があまりなさそうな印象を受けました。おそらく、日々の診療や、学会発表の中で(全く?)NAC目薬を取り扱われることはないので、よくそのことをご存じなく、その状況がそのまま反映された内容になっていると理解しました。